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童話「双子の子守り歌」

静岡県袋井市にお住まいの鈴木君枝さんが執筆した童話「双子の子守り歌」です。鈴木さんは今年成人になれた双子の娘さんと中学生の息子さんを持つお母さんです。自身の育児体験をもとに書かれた童話です。

肩の力を抜いて是非読んでみてください。


− 1 −


 「神様ぁーたいへんですー、たいへんですー。」

 ぼくは天使、神様の手伝いをしている。赤ちゃんをほしいと望んでいるお母さんを調査して、「このお母さんは、今仕事が忙しいので赤ちゃんはもう少し先のほうがいい。」とか「病気も治ったので赤ちゃんが生まれても大丈夫。」とか、神様に報告するのが仕事。ところが、来年の春誕生するあかちゃんのリストを見てビックリ。ドジでお調子者で、料理,洗濯まるでだめな洋子お母さんに、双子の女の子が生まれるって書いてある。間違えたんだ神様。

 「どうするんですかぁ!」

 神様のいい付けで、赤ちゃんが満1歳のお誕生日をむかえるまで、ぼくがついていることになった・・・・。いやはや、どうなるんだろう。

 5月、予定通り双子の女の子、あーちゃん、ちーちゃんが生まれた。お父さんとお母さんは幸せが2倍やってきたと大喜びだ。小さく生まれた2人は1ヶ月も入院して、今日初めて家にやって来る。洋子お母さんは赤ちゃんのために、ほこり1つ無い様部屋をきれいに掃除して、オムツ・肌着・ベビー服を整え、何度も点検した。ピンクのかあいい布団が2枚並んでいる。うれしくてしかたないようすだ。これから始まる赤ちゃんとの生活はいかに!赤ちゃんと過ごす初めての夜、洋子お母さんは結局、一睡もできなかった。


− 2 −


 1ヶ月が過ぎた。洋子お母さんはフラフラだ。あーちゃんを抱けばチーちゃんが泣く。チーちゃんを抱けばあーちゃんが泣く。顔を真っ赤にして、のけぞって、泣き声にならなくなるまで泣いて泡を吹く。2人同時に抱っこしようとしても、どうしても無理だ。こうなるとミルクは飲まないし、なすすべがない。

 「どうしたらいいのォー」

 洋子お母さんも泣き出した。朝9時に始めた洗濯が干し終わるのは2時。やっと食べた昼食は3時。恐怖の夕暮れ時、2人同時に決まって泣き出す。延々泣き続ける。洋子お母さんは、あやしながら、それでも夕食のしたくをして、ふたりをお風呂に入れる。お父さんが帰ってきてようやく長い1日が終わる。そして夜中、2人は交互に泣く。1時、3時、4時、6時、

 「もういやだぁ!」

 と、毛布をかぶって動かない洋子お母さん。だめだよー、がんばってよー、なんとかしてよ神様ぁー!

 お父さんが起きて、黙ってミルクを作ってくれた。そうだよ1人じゃないんだよ。お父さんと2人、必死の育児は続く。


− 3 −


 夏が来た。本当に暑い。家の中でも1番涼しい台所に2人は居た。赤ちゃんの肌はデリケート。汗は大敵と、洋子お母さんは流しの洗面器に座らせ、湯沸し機をシャワーにした。これは名案だ。首も据わってきたし、ミルクの時間も3時間から4時間は間隔が空いて来た。1日中泣きっぱなしの二人だったが、「アーウー」と声をだしては笑顔を見せるようになった。あいかわらず大忙しだけど、そんなよう子お母さんにも笑顔が出るようになった。暑さと忙しさでガリガリにやせちゃったけど、赤ちゃんはどんどん大きくなっていく。

 よく洋子お母さんは子守り歌を歌ってくれた。料理下手、掃除洗濯きらい、気がつかない気がきかない洋子お母さんだけど、驚くほど歌は上手だった。「7つの子、ゆりかごの歌、花嫁人形、夕焼けこやけ、他」たくさんの童謡を知っていた。


− 4 −


 離乳食が始まってこれまた悩みの種が1つ増えたよう子お母さん。「離乳食のメニュー」なんていう本を買って、にらめっこの日々だ。でもね、すぐに解決した。スーパーにずらーっと離乳食の瓶詰めが並んでいた。

「なーんだ、売っているんだ。」

と一安心。いすを2つ並べて座らせる。

「はい、あーんしてえ。」

何でも食べるあーちゃん。口をへの字にむすんであけないちーちゃん。ちーちゃんのスプーンを奪い取って全部食べてしまうあーちゃん。

「まっいいかぁ」

とお母さん。よくないってばあ。食事の後の台所は、見るも無残なありさまだ。1日に3回は掃除機をかけるようになった。

 そしてお昼寝。今日は何の歌を歌ってくれるのかな?『月の砂漠』が聞えてきた。


 2人が寝返りできるようになった。会社から帰ったお父さんは、

「あーちゃん、ちーちゃん、お疲れの所申し訳ありませんが、もう一度お願いします。」

なんて言って、寝返りするのを見て喜んだ。面白いことを発見した。二人はいつも1枚の布団に並んで寝ているんだけど、寝返りするのが、あーちゃんは左で、チーちゃんが右。これをわかっているくせに、

「あっまたまちがえちゃった。」

の声に2人を見ると、真ん中でぶつかって重なっている。だからさ、あーちゃんの右にちーちゃんをねかさなくちゃいけないんだってば!あれっわからなくなっちゃった。


− 5 −


 洋子お母さんがベランダから外を見ている。どうしたのかな?下の公園に、赤ちゃんを連れたお母さんたちが、楽しそうにおしゃべりしているのが見える。そうだよね、ここへお嫁に来て、双子の世話が始まって、お友達がいないんだったね。なんとかして、神様ぁー。

「あっ、ベビー服が飛んじゃった。」干してあった服が風に飛んで公園に落ちた。拾ったお母さんが、届けに来てくれて、

「まあ、双子ちゃんなのォ。すてき、よろしくね。うちの子はユウジ、十ヶ月よ。」

と、初めてお友達ができた。神様、ありがとう。


双子用のベビーカーを借りて、外へ出るようになった。さすがに目立った。いつも笑顔を振りまく二人は、すれちがう人を幸せな気分にさせた。そして、「かわいいねェ、何ヶ月?」と返ってくる言葉に、お母さんは元気づけられた。「たいへんね。」と荷物を持ってくれる近所の人。そんな人とのふれあいにとまどいながらも、やさしさがうれしかった。公園のお母さんたちは、みんな友達になった。自分が悩んでいることは、どのお母さんも同じように悩んでいる。それがよくわかった。ちょっと残念なのは大好きな子守り歌、歌い終わる前に洋子お母さんが寝ちゃうことかな。言い忘れていたけど、ここは団地の五階で、エレベーターはない。洋子お母さんは、二人を抱いておぶって「行くよ。」のかけ声と共に、降りて登ってがんばっている。本当にがんばっているよ、神様!


− 6 −


 外へ行くようになって、今まで気にもしなかった子供服が、やけに気になり出した洋子お母さん。ブランドの名前をいわれても分からないけれど、皆可愛い服を着ていた。そこで何を思ったのか、眠っていたミシンを引っ張り出して、やったこともない『型紙』なんか作り始めた。

「やめなよ、できっこないよ。家庭科の通知表、『2』だよ。」

ボクの声は聞えない。おばあちゃんが久しぶりに、二人を見にやってきた。

「なに?子供服を作るって、あんたが!学校の宿題だって私が仕上げたのに、できるわけないでしょう。」

と言ったが、

「つべこべ言ってないで手伝ってよ。ピンクのフリルのブラウスを作りたいの!」

ときかない。何度も縫い直して何とかしあがった。おそろいのブラウスを着せて公園へむかう洋子お母さんの顔は、とっても得意げだった。


 ハイハイが始まって行動的になった。二人はいつもいっしょのことをしている。1人があっちで、1人がこっちということはない。ふたりいっしょにパタパタハイハイで、オムツのバケツをひっくり返したり、ベランダからオモチャをおとしたり、目が離せない。そのくせお母さんの顔が見えないと大泣きするから、トイレの時もドアを閉められなくなった。


− 7 −


 寒い冬が来た。あーちゃんが39度の熱を出した。初めての病気にオロオロする洋子お母さん。お父さんは仕事でいない。おんぶしていれば眠っているが、布団に降ろせばぐずり出す。こんな時ちーちゃんは、1人でおとなしく遊んでいる。

「ごめんねちーちゃん、かまってあげられなくて。」

と、ちーちゃんを抱きしめて涙ぐむ。洋子お母さんも、あーちゃんに付きっ切りでほとんど寝ていなくて倒れそうなのに・・・。子守り歌が静かに響いた。


 ハイハイからつかまり立ちになって、アンヨができるようになった。初めて歩いた時のお父さんとお母さんの喜びようったらなかったよ。満1歳のお誕生日も、もうすぐだ。ハラハラ、バタバタの1年だったけど、泣いて笑って、洋子お母さんはちゃんと双子を育てた。もう大丈夫だね。

 そしてボクは神様の所へ帰り、またもとの仕事に戻った。洋子お母さん、がんばっているかなぁー、あーちゃん、ちーちゃんは大きくなったかなぁー、なんて考えながら。そして家族っていいなぁー、人の暖かさっていいなぁーって思うようになっていた。

 3年経ったある日、神様から呼ばれた。

「洋子お母さんに、今度は男の子を授けようと思う。お前、子供になるか?」

と神様はいたずらっぽく笑って言った。

「ハイ、よろこんで!」

と、ボクは答えた。7月にボクは洋子お母さんの本当の子供になって生まれる。あーちゃんとちーちゃんがボクのお姉ちゃんか、照れちゃうな。待っててね、お母さん。子守り歌、いっぱい歌ってね。ハッと気がついて神様に尋ねた。

「生まれるのはボクひとりですよね。」